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  • 執筆者の写真JAKEHS EAST

日本人のための日本語教育としての韓国語教育

更新日:2019年1月5日

(記事執筆=中野 敦/公益財団法人国際文化フォーラム)


「??」と思われたのではないでしょうか。いきなりわかりにくいタイトルで始めてしまいましたが、私が韓国語教育に携わる際のスタンスです。


私は日本語教師としてキャリアをスタートし、現在は公益財団法人国際文化フォーラム(TJF)で韓国語をはじめとする外国語や交流に関わる仕事をしています。TJFは、互いのことばの学び合いが重要だと考えています。韓国で日本語を学んでくれる人がいるなら、日本では韓国語を学ぼうといったぐあいです。私はこの考えに個人的にも賛同しています。


外国語を学ぶことで日本語のことがより深く分かるようになることは日本語を第一言語とする外国語教師なら誰もが実感していることではないでしょうか。私も韓国で日本語教師をする傍ら、生活者として韓国語を学ぶことで日本語に対する理解を深めることができました。それだけではなく自分と他者の関係を調整したり深めたりする力も養われたように思います。ひととつながる力「社会力」が高まったといってもいいかもしれません。私は、日本語を第一言語とする人が韓国語を学びながら、他者とのつながりを実現する「社会力」を身につけるようなことばの学びに貢献したいと思っています。


社会力を高めることを意識すると具体的にどのような授業になるでしょう。様々な方法や内容が考えられますが、これまで同様の授業でも学習対象言語から自言語を振り返る機会をつくり、関係構築を考える時間を設けるだけでもいいのではないかと思います。例えば韓国語の授受表現「주다」「받다」は、日本語の「あげる」「もらう」に相当すると指導することが多いと思います。しかし、日本語には「くれる」という形が別に存在します。「くれる」は目的格が自分という状況で授受が行われる際の表現ですが、韓国語では「あげる」に相当すると説明した「주다」の形で同様に表現すると教えます。


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AがBにチョコレートをあげる。  

A가 B에게 초콜릿을 주다.


BがAにチョコレートをもらう。

B가A에게서 초콜릿을 받다.


Aが私(B)にチョコレートをくれる。

A가 나(B)에게 초콜릿을 주다.

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ここで、上記のような言語的特徴を有する韓国語で形成される社会と日本語社会に育った自分が円滑なコミュニケーションを行うにはどのような姿勢で臨むべきか学習者同士で意見を交わす機会を創ってみてはいかがでしょう。決まった答えはありません。しかし一緒に学ぶ仲間と議論しながら考える時間は、言語についての知識や技術の獲得を超えて人と人との間を調整し、つながりを実現することばの学びとなります。


実際に私は、韓国で生活しながら「日本社会に生きてきた自分は、知らぬ間に自分の外側に視点をもたされ自己の行動を規制するようになっているかもしれない。韓国ではもっと自分の内側の声に正直になってみようと」と考えたりしていました。同じ韓国人だとしてもひとりひとり違いますから、それだけですべてうまくいくわけではないのですが、自分の中に表現のバリエーションが増えて、以前よりも少しだけ多様な価値観をもつ人とつきあうことができるようになりました。上に紹介したのは一例ですが、更に社会力を育もうと考えるなら交流を通じた学びや、時事情報の収集分析などにも取り組むといいでしょう。何よりもまず教育目的に意識的になることが大切ではないかと思います。


世界は環境問題、経済問題、食料問題、エネルギー問題など、国境を越えて共有する課題を抱えるようになりました。共有するのは課題ばかりでなく、日本の漫画や韓国のダンスなど娯楽を一緒に楽しむようにもなりました。国は違っていても同じ社会の一員として生きる時代を迎えているようにみえます。新しい社会で重要なのは特定言語の正確な知識や運用技術よりも多様性を内包する社会を支えるやりとりの力です。そのためにまず、日本語を第一言語とする人が韓国語をはじめとする外国語を学びながら、他者とのつながりを果たす「社会力」を身につけるようなことばの学びに意識的になったらいいと思います。これからを生きる子供たちのために、そのようなことばの学びが広がればと願っています。

■参考リンク

公益財団法人国際文化フォーラム(TJF)

http://www.tjf.or.jp/


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